800系電車(Side-E) 最終確認時期:2005年3月

本来の紹介面、いわばA面でいつもの悪口雑言が見られないことに不思議に思って戴いた方、このファイルへのリンクを見つけて戴いたコアな皆様にのみお届けする「Side-E」。いわば暗黒のB面。他の車系についてもひょっとしたら存在しているのかも知れない…。

さて、わざわざ裏面を用意してはいるものの、内容はそれなりに穏当に仕上げているつもりである。まず、今回「つばめ」の目玉ともなった座席であるが、カラーコーディネートなどにケチを付ける気は毛頭無い。むしろ、瑠璃+柿渋など好みの至りである。

この座席は幅広い年齢層の着座を考慮して座面高がやや低めとなっている。なるほど、高齢者や子供を想定すれば充分頷ける設えである。低重心にも寄与する結果であり、そのこと自体はまっこと正当と言えよう。しかし、この座席に座ってみると、その多くがえもいわれぬ違和感を感じると思われる。強いて言えば体との不協和音。その問題点は座面・背面・センターアームレストと一番肝心要の部分の問題点として集約される。

まず背面(背ズリ)。ハイバック仕様となって、着座時にプライバシー性が高くなっているのは評価されるべきであるが、その高さ故、一般的な人間の肩が掛かるラインの詰物(画像で言えば上から2段目の部分)の出っ張りが他のブロックとほぼ同じ、もっと言えば角度の切り込みが不足しすぎ、というのは理解に苦しむ。人間工学的にも適正と言われるS字カーブを着座時に描けていない。

次にヘッドレスト、大きすぎる上に(感覚的に荒い)綿を使っている感じ。多くの人はヘッドレストの下端に後頭部が当たる形となる。故に余計先述の部分が強調されてしまう。JR九州オフィシャルの「つばめ」コンテンツが勧めている通りに深く腰掛ると、多くの人がかなり厳しい姿勢を取らされてしまう。

続いてセンターアームレスト。決定的なものはリクライニングボタンの位置の悪さ。インアームテーブルが無い当初案では、センターアームレスト先端というまぁまぁのスイートスポットに配置されていたボタンだが、何を間違えたかググッと内側に寄り付けられてしまった。この場所では、かなりの人が肘を曲げて、手のひらを手前に引いてボタン装置に指を掛ることとなる。これは広いセンターアームレストの機能をスポイルしてしまうポカミス配置以外の何者でもない。せめて先端カーブが始まる辺りに設置しなければ意味がない。内側に付けざるを得ない、と言う時点でここまで下げたのはコスト削減以外の理由が見当たらない。この座席に限らず、異様にリクライニングボタンが手前に寄っている座席は多くがコスト低減の犠牲になっていると言っても過言ではない。そして、その犠牲先とは利用者の操作性であり座席取り回し動線の乱れ、と言う事業者は全く痛まず利用者だけが一方的に被る不利益である。

さらに座面部分。まずは座面角度が致命的に不足している。そのため、リクライニング時に腰がずるずると前に動いてしまう。西陣織の表地が悪く出ている一面。材質こそ違えどJR東海373系のCR-68と同様の破滅的な着座感を増幅させている原因である。そして既に底突き感満点の薄め座面。ついでに、直接座り心地には作用しないが、座面と背面が出会う部分には隙間埋めのウレタン角材…布でカバーとかそういう配慮一切無しの殺風景仕様。折角の質感を一発でスポイルしている悪設計、最低のセンスである。新築住宅の外壁にクラックを見つける位気まずい。

そして、この座面を一層悪くしているのがリクライニング機構(シートリクライナ)の位置。上の写真を見て貰うと判るように、リクライニング時に座面後端両脇が少し盛り上がるようになっている。これはこの下にリクライニング機構のアーム部分が飛び出してくるため。恐らく、この座面とハイバックを確実に傾斜させ、回転時にはリクライニングを復帰させる苦肉の策とも取れなくはない。しかし、これこそが座席の座り心地を最も悪くしているいわば「設計上のガン」。

その影響は、上半身体重を背面で受けさせず、全て座面前方へ土砂崩れのように流し込み、本来膝部より高さを下げなければならない臀部を盛り上がらせ、座席の奥まで着座する人を座らせず、結果として太ももから両足つま先までで「しっかりと」体重を突っ張らせる体勢(学生的筋トレで言えば皮肉にも「空気イス」)を強いるものである。そして、JR九州はコトもあろうにこの座席をベースとした近縁種を南九州一帯にバラ蒔いてしまった(「はやとの風」「なのはなDX指定席」…リクライニングせずとも判る酷さ)。これを悲劇と呼ばず何と呼ぶのか。

リクライニングをさせなければどうか?それであれば窓側席を見て欲しい。その極めて切り立った角度はまともな着座を否定する以外見当たらない。どっちに転んでも座り心地という点では逃げ道のない座席なのである。これこそ「近来まれに見る史上最悪設計座席シリーズ」へ堂々ノミネートすべき座席と言わずして他どのような表現が妥当と言えるだろうか。

予算・デザインの狭間で揺れるメーカーの苦労も判らないではないが、この座席が試作としてできあがってきた時、誰も疑問を差し挟まず誰も文句を言わなかったのだろうか?況やこの座席にGoサインを出したJR九州とドーンデザインは座席という機能に照らし、何を見て、何を考えているのか?全くもって理解できない。

787系では、グリーン車もさることながら普通車の窓側間隔の改善に起因する隣席間隔改善という「離れ業」をやってのけただけに、今回の800系電車の座席環境には正直期待ハズレを通り越し、失望・絶望しか残らない結果となった。今後このフレームをベースとした座席が新型車両・リニューアル車両で次々出てくる事態となったら、と思うと暗澹たるモノを感じさせられた後味の悪い体験となった。

車両選択に戻る>>
元に戻る